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夢の果てで会いましょう

プロローグ

 ――夢。
 これは夢だろうか。私は今、夢を見ているんだろうか。
 単に好きな人の部屋を訪れただけなのに、未知との遭遇みたいなことになっている。
 彼は目の前で困ったように笑っているけれど、この状態で私は一体何を言えばいいんだろう。思いきって気絶できれば良かったのかもしれない。でも、不幸な事に私はその現実逃避に失敗した。目の前で笑ってる彼とそれを交互に見て、同じように苦笑するしかない。
 私の目の前にある、それ。
 ある、というのはおかしいかもしれない。それ、と言うのも失礼かもしれない。人形のようではあるけれど人間なんだから。今更そんな細かい事を言い直してみても仕方がないんだけど。
 私と彼の目の前に、まるでどっかの貴族みたいな派手なドレスを着たお姫様がいる。まさしく中世ヨーロッパのブルジョワ階級の令嬢って感じ。
 日本の一戸建家屋には似つかわしくない、というより完全に浮いている。
 普通は彼氏の部屋へ入って自分以外の女がいた場合、もっと別の意味でびっくりする事だろう。誰よ、この女。どういう関係? フタマタかけてたの? とか言っちゃったりして。
 でも、これはそんな状況を飛び超えてしまっている。
 ものすごいドレスを着た女の子。褐色のくるんくるんに巻かれた長い髪と茶色の瞳。アンティックドールのようにぽつんと座っている。この現状で嫉妬している場合ではない。思い切り異常な光景だ。
 例えば派手なドレスを着てヨーロッパの貴族ごっこをするのが、この二人の趣味なんだろうか。
 でも、そう考えるには二人の反応はおかしかった。
 彼は苦笑してはいるけれど、こんな場面を見られても焦っている様子はなく。
 お姫様のような彼女はキョトンとして私と彼を見比べている。彼女の仕草から分析すると、どうやら私や彼より年下みたいだ。完全に状況を把握していないのは、私だけではなくて彼女も同じみたい。
 これは夢だろうか。
 アンティックドールのように座り込んでいる女の子。
 苦笑している彼。ドアを開けたまま立ち尽くす私。
 誰か何とか言ってよ。これ、説明してほしい。
 自分の事を棚に上げてそんな事を思ってしまう。
 そう思ってから、彼に今の状況を説明してもらえばいいんだと思い至る。どうやら突然のこの状況に、私もいろいろ混乱しているらしかった。
「ここ、どこ?」
 でも、最初に口を開いたのは彼でも私でもなく、人形のようなお姫様。発した言葉は「ここ、どこ?」の一言。
 どういう事だろう、これは。
「――――……」
 彼は彼女の言葉で我に返ったのか、顔から苦笑をとり除く。私と女の子を交互に見た。癖のない真っ直ぐの髪が、彼の吐息と共に揺らいだ。
「ここ、どこですか?」
 お姫様はもう一度問いかけた。異様な状況は続いているようだ。
 はっきり言って、夢であることを願う。
 夢であってほしい。

 とりあえず、何だかややこしい事になる予感がするので、私はここに至るまでの事情を先に語っておこうと思う。


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